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Piano girl
- 2010.07.27 Tuesday
- diary
- 07:27
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- -
- by hina
道端に、ドやら、レやら、ミが散らばっている。
またか。
窓を開け放してピアノを弾くから、こうなるのだ。
ドやレをひとつひとつ拾い上げ、彼女のいる出窓へと届けにゆく。
そこではいつものように、カフェオレ色のカーテンが風に靡いている。
「リズ。ほら、落とし物」
「ああ比奈さん。こんにちは」
挨拶しながら音階を受け取るものの、リズのちいさな手にそれは収まりきらず、ぽろぽろ零れている。
「ピアノを弾く時には窓を閉めるよう言ったでしょう?
道が散らかってたよ」
「うん。でも、開けておきたかったの」
「踏まれて砕けちゃったら哀しいじゃない」
「うん、そうね。
比奈さん、珈琲飲んでいったら?」
「お言葉に甘えようかな」
リズが珈琲を好まないことは、言わずとも判っている。
それでも私が飲むと、いつでも同じものを飲みたがる。
カップの中の珈琲が減る度に、牛乳を足す。
それが彼女流の飲み方だ。
珈琲は次第に白色の度を増してゆき、終いには純然たる牛乳と化す。
またか。
窓を開け放してピアノを弾くから、こうなるのだ。
ドやレをひとつひとつ拾い上げ、彼女のいる出窓へと届けにゆく。
そこではいつものように、カフェオレ色のカーテンが風に靡いている。
「リズ。ほら、落とし物」
「ああ比奈さん。こんにちは」
挨拶しながら音階を受け取るものの、リズのちいさな手にそれは収まりきらず、ぽろぽろ零れている。
「ピアノを弾く時には窓を閉めるよう言ったでしょう?
道が散らかってたよ」
「うん。でも、開けておきたかったの」
「踏まれて砕けちゃったら哀しいじゃない」
「うん、そうね。
比奈さん、珈琲飲んでいったら?」
「お言葉に甘えようかな」
リズが珈琲を好まないことは、言わずとも判っている。
それでも私が飲むと、いつでも同じものを飲みたがる。
カップの中の珈琲が減る度に、牛乳を足す。
それが彼女流の飲み方だ。
珈琲は次第に白色の度を増してゆき、終いには純然たる牛乳と化す。
Telephone
- 2010.07.15 Thursday
- diary
- 07:15
- comments(2)
- trackbacks(0)
- -
- by hina
知らない老婦人から電話が来た。
ところが、彼女は私を知っている。
私の知らない私まで、知っている。
「細かいことが好きだったでしょ。
作ってくれたペンギンや何かね、全部とってあるんだよ」
「ほんとうに可愛かったんだよ」
「体、良くないの?
でも前は色々やってたじゃない?」
「もういつ結婚してもいいわね」
あはは、まあ相手が居ればと私は言う。
「お父さんみたいなひと、善いじゃない」
ふへへへ。そうですね、と私。
そうですね。と繰り返す。
もう十五分は経過したんじゃなかろうか。
ようよう名乗ってくれたのは良いが。
矢張り、憶えがない。
「元気でね。可愛い比奈ちゃん!」
はい、どうもありがとうございます!
そちらもどうぞお元気で……
お元気で。と言い終えぬうちから、受話器の向こうでガチャンという音が不恰好に砕けて、此方の床へと散らばった。
ところが、彼女は私を知っている。
私の知らない私まで、知っている。
「細かいことが好きだったでしょ。
作ってくれたペンギンや何かね、全部とってあるんだよ」
「ほんとうに可愛かったんだよ」
「体、良くないの?
でも前は色々やってたじゃない?」
「もういつ結婚してもいいわね」
あはは、まあ相手が居ればと私は言う。
「お父さんみたいなひと、善いじゃない」
ふへへへ。そうですね、と私。
そうですね。と繰り返す。
もう十五分は経過したんじゃなかろうか。
ようよう名乗ってくれたのは良いが。
矢張り、憶えがない。
「元気でね。可愛い比奈ちゃん!」
はい、どうもありがとうございます!
そちらもどうぞお元気で……
お元気で。と言い終えぬうちから、受話器の向こうでガチャンという音が不恰好に砕けて、此方の床へと散らばった。
Rain Rain Rain
- 2010.06.13 Sunday
- diary
- 06:13
- comments(0)
- -
- -
- by hina
その夜、私は隧道のように連なる楓の下を、ひとり歩いていたのです。
雨音だけが響く中、雨に濡れた葉の香がふと暗がりに閃きました。
楓の下を歩いてゆくと、葉にまみれた貧相な小屋が、茸の如く不気味に佇むのが見えます。
どうも飲食店のようだけれど……こんな所に?
「来たい者だけ来ればよい」と言わんばかりの、薄汚い外装。
怪しいではないか。
不審に思いつつも、手は扉に伸びました……。
そこで出されるのは、珈琲や、何とも色彩の美しい洋酒たちでありました。
薄暗いけれど、暖かみのある照明だなあ。
あまく繊細な音楽も、耳に心地好い。
店主曰く「とことん呑むための空間ではなく、悪酔いするような客も不思議と来ない」そう。
お勧めは?
オリジナルカクテル『ワカメの溜め息』。
じゃ、それで。
珈琲の匂いの染み込んだソファでは、見知った客同士、芸術や哲学を論じて飽きません。
聴いてみると、深いのだか浅いのだか判然しません。
莫迦莫迦しいけれど、何だか憎めない。
意味不明だけれど、何処か愛おしい。
海月が水中をぷりぷり漂うような会話です。
さも親しげに駄弁を振るっているものの、互いの素性など何も知らないのだそうです。
雨音だけが響く中、雨に濡れた葉の香がふと暗がりに閃きました。
楓の下を歩いてゆくと、葉にまみれた貧相な小屋が、茸の如く不気味に佇むのが見えます。
どうも飲食店のようだけれど……こんな所に?
「来たい者だけ来ればよい」と言わんばかりの、薄汚い外装。
怪しいではないか。
不審に思いつつも、手は扉に伸びました……。
そこで出されるのは、珈琲や、何とも色彩の美しい洋酒たちでありました。
薄暗いけれど、暖かみのある照明だなあ。
あまく繊細な音楽も、耳に心地好い。
店主曰く「とことん呑むための空間ではなく、悪酔いするような客も不思議と来ない」そう。
お勧めは?
オリジナルカクテル『ワカメの溜め息』。
じゃ、それで。
珈琲の匂いの染み込んだソファでは、見知った客同士、芸術や哲学を論じて飽きません。
聴いてみると、深いのだか浅いのだか判然しません。
莫迦莫迦しいけれど、何だか憎めない。
意味不明だけれど、何処か愛おしい。
海月が水中をぷりぷり漂うような会話です。
さも親しげに駄弁を振るっているものの、互いの素性など何も知らないのだそうです。
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